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Wolfhound Monthly

アイリッシュウルフハウンド雑記帳

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New Revised Standard スタンダード改定

ご存知でしょうか。アイリッシュ・ウルフハウンドのスタンダード(犬種標準)が改定され、かなり大幅な変更が加えられました。原産国アイルランド(IWCIおよびIKC)での昨年8月の改定を受けて、FCI国際畜犬連盟のスタンダードも改定される見込みです(現在FCIのサイトでは改定前のバージョンが掲載されています)。

ウルフハウンドのスタンダードは、ほぼ1885年に制定されたオリジナルのまま現在まできています。1930年に「目は濃い色」、1979年に「歯の噛み合せ(バイト):シザースバイトが理想であるが、レベルバイトは許容される」が付け足されましたが、オリジナルはシンプルかつ完成されたスタンダードだと、多くの関係者たちは考えてきました。ところが、2015年の改定は、オリジナル制定以来初めて、かなり広い範囲に変更・付け足しをしました。

この改定について、今年5月にドイツで行われたEIWCコングレスでIWCI会長のジム・ビーハンが報告しています。それによると、オリジナルのスタンダードはこの犬種が本来の目的を果たすために必要なことを熟知した、経験豊富な人びとの手になる優れたものであるという考えから、IWCIは長年にわたりスタンダードの変更を拒んできました。しかし近年、スタンダードを理解できない、あるいは誤解する人たちが出てきているため、重要な点をわかりやすく明確にするため、今回の改定に至ったということです。つまり、オリジナルに忠実に内容を変えないまま、表現を変えたり付け加えたりしてわかりやすくした、ということです。ただし、最低サイズの引き上げと、他犬種への言及の削除という重要な変更も合わせて行われています。これらの変更もまた、時代の変化に対応したものです。

主な変更点

※参考までに、改定前のスタンダード(日本語)は<こちら>に、また今回改定された新スタンダード(英語)は<こちら>に掲載しています。

・犬種の歴史:記述が大きく書き換えられ、以前よりもバランスのとれた内容になったと思います。

・全体的外観:グレートデーンとディアハウンドへの言及部分「グレートデーンほど重くがっしりとはしていないが、ディアハウンドよりは重くがっしりしており、その他の点ではディアハウンドに似ている」が削除されました。過去100年余りの間にグレートデーンもディアハウンドもかなり大きな変化を遂げており、オリジナル執筆当時の文意が正しく伝わらなくなっているため。スタンダードでは他犬種の参照は極力避ける、というFCIの方針にも沿っています。19世紀末当時のデーンとディアハウンドを正しく思い浮かべることができれば、この2犬種との比較はわかりやすいのですが、現代の犬種を見慣れている人には難しいでしょう。
 改定版では、「サイトハウンドのなかで最も大きく体高が高い。ラフコートのグレイハウンドのような犬種である」という表現になりました。

・態度と気質:「家では子羊、獲物を追うときはライオン」だけだったのが、「あらゆる犬種の華、まことに誠実で勇敢、家では子羊、獲物を追うときはライオン(The Irish Hound of Llwelyn, 1210年からの引用)。社交性があり、他の犬や人に優しく、狩りにおいては決然とした、忠実なコンパニオンである」に変わりました。シャイな犬が増える傾向にあることも近年憂慮されている点の一つ。社会性があり、他の犬や人に優しいというのは、とても大事なことです。

<各部>
・首:「首は高く上げている」が「首は誇らしげに(proudly)上げている」と改められました。首が過度に細く長くなる傾向に歯止めをかけるためでしょうか。
・耳:ローズイアーで、「グレイハウンドのような付き方」が「高い位置についている」に変更されました。
・尾:「尾は背中の高さより低い位置に保持していなければならない」の一文が追加されました。
・前腕:「パスターンはわずかに傾いている」が追加されました。テリアのようにパスターンがまっすぐ(垂直)な犬が結構いますから。
・歩様:「軽やかで闊達(easy and active)」に「リーチとドライブがある(with good reach and drive)」が付け足されました。リーチ(歩幅)とドライブ(後足の蹴り出す力)の弱い犬が多く見受けられます。ただし、多くの犬種で問題だと指摘されている、いわゆるTRAD(過剰なリーチとドライブ。上腕の角度不足や、後肢の長さ・角度過多を伴うことが多い)は、もちろんNGです。
・毛色:グレー、ブリンドル、レッド、ブラック、ピュアホワイト、フォーンに新たに「ウィートン」が追加され、「その他ディアハウンドにある毛色」は削除されました。

・サイズと体高:最低の体重と体高がそれぞれ引上げられました。新しい最低値(成犬)は、「オスが81cm・57kg、メスが76cm・50kg」です。以前と比べ、オスで2cm・3kg、メスはなんと5cm・10kgも引き上げられたことになります。ただ、実際のショ―ドッグやブリーディングストックのサイズから考えると、この数字はほぼ妥当なところなのかもしれません。

・欠点:「狭い下顎、犬歯の位置異常」および「神経質または攻撃性の兆候」が付け加えられました。幅の狭い下顎と犬歯の位置異常は、ヨーロッパなどでかなり問題となっています。ひどい場合には下の犬歯が上顎の口蓋に突き刺さり、化膿してしまうケースもあるとか。こうした傾向が良くないのは当たり前過ぎて言うまでもないですが、スタンダードに明記しなければいけない時代になったようです。神経質・攻撃的な兆候も同様。大きくパワフルな犬だけに、安定した性格が求められ、繁殖の際には決して軽く考えてはならない点です。


変更点を見ていくと、たしかに「わかりやすく」するために説明を加えたという意図は理解できます。書かなくても共通理解があることを、あえて文章化したという印象を受けました(サイズ変更は別ですが)。犬種の初心者のうちは、スタンダードの文章が簡潔すぎて、具体的にどういうことを言っているのかわからない、と感じることが多いと思います。そういう状態から、自分の犬との様々な経験を通して、また先輩ブリーダーの教えを受けたり、ショ―やセミナーや専門雑誌・図書などで勉強したりしていくうちに、「あれはこういうことだったのか」と理解が深まっていくものだと思います。ところが、そうした「勉強」の過程をすっ飛ばしてしまう新参ブリーダーも少なくありません。また、アイルランドやイギリス、アメリカ、カナダなどIWの歴史が古い国では、長い経験と豊富な知識をもつブリーダーが多数いて、彼らが若い世代の「メンター(師匠)」になり知識を受け継いでいくことが可能でした。ショ―や犬種クラブに関わっているうちに自然と理解も深まる、そんな環境が整っていると言えます。しかし最近では、メンターを持たず我流で繁殖する人も増えていますし、東欧・スラブ圏あるいは中南米など、IWの伝統の浅い国でも繁殖が盛んになってきています。「わかりやすいスタンダード」への要請は、こうした現状への懸念から生じたものと思われます。

もっとも、サイズと他犬種への言及以外の部分は、スタンダードを改定しなくても、IWCI公式スタンダード解説を文書の形で出すなどしてもよかったような気がします。ただ、スタンダードに書いていない=好き勝手に考えてよい、と受け止める人が出てくるのを防ぐ意味では、やはりスタンダードを改定して説明を盛り込むほうがよいのでしょうか。改定スタンダードでは、「IWは現在では世界中で飼われ繁殖されている」という一文も加わりました。今回の改定は、グローバル化した現代のIWワールドでは、比較的狭いコミュニティで自然と形成される共通理解や知識伝承が通用しなくなっていることの表れのように思います。奇しくも今夏、EIWC(ヨーロッパIWクラブ連盟)がFIWC(国際IWクラブ連盟)へと名称変更しました。歴史も文化もバラバラな国の人たちが、IWを通してひとつにまとまろうとしています。

ジム・ビーハンのEIWCでの報告は次のような言葉で締めくくられました。「私たちはこの古い犬種を大切に保存しており、この犬種の真正性は、未来の世代の人びとへの信頼において保持されるものと信じています。私たちの高貴な犬種を、世界中の国々、友人たちと共有できることは、私たちにとって大きな喜びです」。これからの世代のブリーダーや愛好家たちが、この犬種を正しい姿で受け継いでいってくれるように、というメッセージです。スタンダードは犬種のバイブル。何度も読んで、勉強して、正しい理解を深めていく必要があるということを忘れないように。

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