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Wolfhound Monthly

アイリッシュウルフハウンド雑記帳

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気になる肘関節形成不全 Elbow Dysplasia


股関節形成不全はよく知られた犬の遺伝性疾患ですが、肘関節形成不全のほうは、それほど知られていないかもしれません。しかし、ウルフハウンドでは、股関節よりもむしろ肘関節の形成不全のほうが注意すべき疾患です。アメリカのOFAの統計データでは、ウルフハウンドの肘関節形成不全の罹患率は12.6%で、股関節形成不全の罹患率4.7%を大きく上回っています。また12.6%という数値はOFAの登録114犬種中28位で、他犬種と比べてもかなり高めであることがわかります。にもかかわらず、ウルフハウンドの各国のクラブなどは、肘関節形成不全はほとんど問題視してきませんでした。例えばイギリスでは、1980年代に一時増えたが繁殖者の努力で減り、いまは問題ではない、また発症すればブリーダーや飼い主が気がつくからスクリーニング検査(全頭検査)の必要はない、といった理解のようです。各国クラブ等のこのような「問題ない」という姿勢と、OFAの12.6%という数字をあわせて考えると、肘関節形成不全は今後予想を越えて急増する恐れもあると、ずっと憂慮してきました。

そんななか最近、イギリス・アイリッシュウルフハウンド・クラブの会報最新号(2016年)に肘関節形成不全の記事が掲載され、スクリーニング検査の呼びかけがなされました。肘関節形成不全の問題は、いままで考えられてきたほど単純明快ではないことが、この記事でもはっきり示されています。良い機会なので、内容をかいつまんで紹介したいと思います。

会報記事の筆者は、実際に肘関節形成不全を発症したIWの飼い主で、ブリーダーではないものの長年何頭ものIWと暮らしてきて、経験・知識ともに豊富な方です。その人のところに一番最近やってきた子犬が、生後4ヵ月で重度の肘関節形成不全(肘突起癒合不全)になり手術をしたことが、今回の記事を書くきっかけになっています。ただし、それが全てではありません。筆者が驚きをもって報告しているのは、イギリスのウルフハウンドでは珍しい病気だと信じられていた肘関節形成不全が、知り合いの飼い主・ブリーダーに直接尋ねてみると、大抵の人が自分の犬または知り合いの犬で経験しているとわかったこと。決して珍しい病気ではなかったわけです。そしてさらにもっと衝撃的な事実が明らかになります。遺伝性疾患であるため、慌てて仔犬の父犬を検査したところ、ショ―で活躍し誰もが健全な歩様だと考えていた犬が、実はかなり重度の肘関節形成不全であることが判明したというのです。

肘関節形成不全は、幼犬期から前足の湾曲が大きくなり痛みが出るなど、見た目に明らかになり治療されるケースもありますが、実はこのように一見わからないまま成犬になり、検査をして初めて形成不全が発覚するケースが決して少なくありません。あえて検査をしない限り、飼い主も獣医師もドッグショーの審査委員も気がつかないということがあるのです。誰も気がつかないまま、もしも繁殖に使われた場合には、子犬たちに遺伝し、場合によっては子犬時代に大きな手術をしなくてはならなくなります。スクリーニング検査が必要なのは、こうしたケースがあるからです。また、遺伝が多因性なので、両親がともにクリアでも子犬に出る場合があります。したがって、繁殖犬だけを検査しても不十分で、親兄弟親戚、なるべく多くの犬が検査を受け診断されることが鍵になります。

肘関節形成不全の発症率のデータはあまり多くありませんが、上記OFAのほかに、ノルウェーで25%、フィンランドで19%といった結果も出ています(OFAのデータは実際よりも低めに出ている可能性が強いと思います)。おそらく、どの地域でも20%前後は行っているのではないでしょうか。この数値は、遺伝性疾患がある犬種内で爆発的に増える可能性のある数値のほんの一歩手前です。25%を越えてしまうと、そこから先は急激に罹患率が急カーブを描いて上昇し犬種内に蔓延すると言われています。


ullitimo2009summer.jpeg
本文と写真は関係ありません。(2009年夏のうり&ティモ)




心臓病(拡張型心筋症)や骨肉腫のように、ウルフハウンドでは他にも発症率が2割を越える深刻な遺伝性疾患があります。とくに心臓病については、多くの国で検査が推奨または義務とされ、かなり積極的な対応がとられていますが、肘関節形成不全はこれまで等閑視されてきました。痛みが出るかもしれないが、命を脅かすほどの病気ではないというのも、理由の一つなのでしょうか。ただ、遺伝形態が複雑で発症年齢が高めな心臓病と比べて、肘関節形成不全は若いうちに簡単な検査で把握することができます。次世代の負担やリスクを少しでも減らし、また繁殖する・しないとは関係なく、罹患犬には早くから適切なケアを行うためにも、全ての犬が検査を受けるのが望ましいと言えます。

肘関節形成不全は、理想的な運動環境を整えて適切な運動をさせていくこと、体重などのコンディション管理、運動後の体のケアなどを合わせて行っていけば、重度であっても、大きな障害が出ずにすむこともあります。今回紹介したイギリスの例の父犬も、幼い頃に脚の怪我をしたために、普通の運動を控えて水泳などを中心にしていたので、そのおかげで肘の形成不全が目立った症状を表さなかったのかもしれないと書かれています。

成長期のウルフハウンドの健全な四肢の発育には、とても気を使うものです。負担をかけすぎないよう、大事に大事に育てていくことが、一方でこの病気に気がつくことを遅らせているとしたら皮肉なことです。大事に育てなければいけないのはもちろんですが、一見まったく健全であっても、成犬になったらひととおり検査をすることをお勧めします。そしてもっと欲を言えば、そうした検査結果をOFAやJAHDなどに登録、公開してほしいと思います。情報をシェアしていくことは、この犬種をより健康にしていくために不可欠な、大きな力になるからです。


ウリ肘関節
JAHDで診断を受けた際の肘関節レントゲン写真(結果は正常)。



*股関節形・肘関節形成不全については、こちらも参考にどうぞ。
 http://irishwolfhoundjp.blogspot.jp/2015/02/chd-ed.html


 

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