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Wolfhound Monthly

アイリッシュウルフハウンド雑記帳

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骨肉腫の最新治療研究

アメリカでは11月は全国ペットの癌啓発月間(National Pet Cancer Awareness Month)です。ということで癌にまつわる話題。

人間と同じく犬でも癌は身近な病気ですが、遺伝的素因が発症に関与するため、純血種の犬の場合には犬種ごとにかかりやすい癌の種類や罹患率が異なります。残念ながらアイリッシュ・ウルフハウンドも癌の発症率が高い犬種のひとつ。約3割の犬が癌で亡くなるとされています。そのなかでも多いのが、非常に進行が早く攻撃性の高い悪性腫瘍である骨肉腫(bone cancer/ osteosarcoma)です。しかも今のところ根治できる治療法はありません。大型犬種の主に中〜高年齢の犬に多くみられる癌で、IWのほかにディアハウンド、グレイハウンド、グレート・デーン、ニューファウンドランド、ロットワイラーなどでも多く発生しています。

病気はなんであれ嫌なものですが、骨肉腫は犬にとっても飼い主にとっても最も辛い病気のひとつではないかと思っています。(詳しくはWolfhound PeopleのHPの「救急箱」骨肉腫のページをご覧ください)。そのため心臓病などと並んでウルフハウンド関係者の間での関心も高く、2000年代になってから原因遺伝子を突き止めるDNA研究がアメリカ、ヨーロッパ、イギリスでそれぞれ進められています。そして、免疫療法が有効な癌であることはすでにわかっていたのですが、この免疫作用を利用した今までの方法よりも予後の良い治療法の研究が現在アメリカで進んでいます。

新しい治療法は、アメリカのペンシルヴェニア大学のニコラ・メイソン博士らが進めている、免疫作用を活用したワクチンによる療法です。現在は第一期の臨床試験を行い、安全性と治療効果を確認している段階です。

ここからちょっと細かい話になりますが、このワクチン療法には、ADXS31-164という遺伝子組換えのバクテリア・ワクチンを用います。このワクチンには、 Her2/neuという成長受容体を発現するように組換えされたListeria monocytogenes というバクテリアが含まれています。Her2/neuは、犬の骨肉腫細胞を含む多くの癌細胞に発現する成長受容体ですが、ListeriaバクテリアもHer2/neuタンパクを含むため、ワクチンを接種すると骨肉腫の患者に免疫反応を引き起こし、患者の免疫システムにHer2/neuを攻撃させます。また、骨肉腫細胞にHer2/neuが含まれていない場合もありますが、転移を引き起こす細胞は必ずHer2/neuを含んでいることがわかっており、ワクチンによって転移を予防することが可能になります。これによって、断脚と抗癌剤治療後の予後を大幅に改善することが期待されています。

現在の臨床実験は、骨肉腫と診断されて断脚と化学療法を選択した犬12頭を対象に、ワクチンを接種しその後の経過をみるという形で行われています。メイソン博士は結論を出すのは時期尚早としていますが、現状の経過は非常に期待の持てるもので、重い副作用も見つかっていません。被験者のうち骨肉腫の診断を受けてから500日以上再発・転移のない犬が今年の10月現在3頭(うち1頭は570日経過)おり、またもっと最近にワクチンを受けた犬たちも経過は良好だということです。長期経過した犬には、免疫を活性化させるためのワクチン再接種も行われるということです。

気になるのが、断脚しなかった(できなかった)犬の場合。IWのような超大型犬で、年齢や健康状態などの理由で断脚ができない場合もあります。そうしたケースでも、放射線治療と免疫治療を組み合わせることで癌に対する免疫を活性化させられる可能性が示唆されています。このような予測のもと、メイソン博士は断脚しなかった犬に放射線治療の後にワクチンを接種する臨床試験も開始していました。

まだ研究は初期段階で、より多くの臨床試験などを行って効果や安全性を高めていかなくてはなりませんが、飼い主としては一日も早く実用化してほしいと願うばかり。診断と同時に断脚するかどうかの即時の決断を迫られ、断脚をしてもその後何日・何ヶ月生きられるかわからない、しかししなければ激しい痛みに苦しむかもしれず、遠からず安楽死の決断を迫られる時が来る。ワクチン療法は、この犬にも飼い主にも辛い治療の心身の負担を、相当に和らげてくれるのではないか。とても期待のもてる治療法です。

それと同時に、各国で進められている遺伝子研究も早く成果がまとまってほしいですね。遺伝子が突き止められれば、繁殖の段階で、リスクの高い組み合わせを避けることができるようになります。沢山の涙と辛い別れを減らすことができる、一番確実な方法になるはずです。

私の知っている範囲でも、毎年何頭も骨肉腫で亡くなるウルフハウンドがいます。今現在、闘っている子もいます。飼い主さんの気持ちを思うと、それだけでも辛い。この病気がなくなるのが一番ですが、治療法の進歩が本当に待ち遠しくてなりません。



より詳しい情報:
http://www.iwfoundation.org/articles_detail.html?item_id=42&year=2013
http://www.vet.upenn.edu/research/centers-initiatives/canine-cancer-studies




〔追記〕

もう5年ほどになるかな。以前、ブログやホームページを通じて呼びかけた際に、スウェーデンでの骨肉腫の遺伝子研究のために血液サンプルを送ってくださった皆様。あれからどうなってるかな?と思われてるかもしれません。スウェーデンからは定期的にフォローアップの問い合わせが来ていますので、亡くなった子については死亡年と死因をこちらから回答しています。その後この研究はスウェーデンだけでなく、EUの共同研究へと発展して継続しています。まだまとまった成果は出ていませんが、進展がわかればブログで報告します。

また、3〜4年前にブログで呼びかけ、オフ会でもサンプル採取・提出にご協力をいただいたこともありました。こちらはイギリスのAHTという機関が行っている骨肉腫の遺伝子解析研究です。血液ではなく、唾液をブラシで採ればよいので、沢山の方(犬)に協力してもらいました。こちらも協力した犬が亡くなった場合には連絡をし、死因が骨肉腫・心臓病であれば知らせることとなっています。研究は今現在も進行中です。これについても進展がありましたら報告します。

ご協力いただいた方で、もしサンプルを提供してくれた子が亡くなった場合には、スウェーデン、英国のいずれか該当する機関に連絡(死亡報告)をしてください。私の方へ連絡してくださっても結構です。連絡先が不明の場合も、当ブログへお問い合わせください。




すべての骨肉腫になった犬と飼い主さんへ、エールを送ります。

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Comment

れいこ says... "読んだだけで泣けてくる・・・"
既に夕食も終わり、今日はちょっと酔ってます。
老眼も加わり、大して意味も分からないまま、読み終わって涙して、さて、コメントと思ったら、もう書く内容が思い浮かびません(汗)

辛く悲しい病は沢山あれど、骨肉腫は、本当に根絶されて欲しい病です。
断脚するかどうか、その決断は身を切られるように辛い。その後の苦しみも。
目先の繁殖よりも、この先いかに健康な子を増やせるかを一番に、元気で長生きする子たちが増えてくれる事を祈るばかりです。
私たちがこの世に居なくなってから先、この愛しい犬種の寿命が「IW 寿命7年」が「10年」になっていればいいですね。
私もマックの血液、送ったけど、貢献出来てるかな? あれはスウェーデンだった? ん~??
2013.11.24 18:50 | URL | #- [edit]
ullibo says... ""
れいこさん

せっかく気分よくほろ酔い(?)のところ、重たい記事を読んでもらってありがとう^^
本当に辛い病気ですよね。私自身は経験してないけれど、人の話を聞くだけでも辛いもの…。なくなってほしい病気No.1です。

スウェーデンに送ってくれたDNAサンプル、しっかり研究に活用されていますよ。まだ最終結果は出ていないですが。そうだ、その話も本文に追加しておかなくちゃ。れいこさん、ありがとう。

平均寿命を延ばす。それは、病気を少なくすること。みんな普通に10歳までいけるようになったら、素晴らしいですね!

PS そうだ、前回の記事に書いてくれたコメントで、ひとつ思い出したことをここに書いておきます。戦前の日本の犬のことなら、「帝國ノ犬達」というブログが超詳しいです。マニアックすぎて、私も全部の記事を読めてないですが、つまみ読みするだけでも面白いですよ。検索してみてください。
2013.11.25 17:23 | URL | #P5Ratfm2 [edit]

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